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ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ <雨ニモマケズより>


by tamasiro-sango

歌の反逆児

老いぼれ一人、喉をからして、うたう
海から吹き上げてくる風に
ふりしぼる声を乗せて、オモイをうたう

ここは万座毛、けわしい断崖の岬
波打つ岩場、とどろく潮騒、犬の子と蔑まれ
石もて追われ、ぼろをまとったテテなし子

おいらは、とるにたらないちっぽけな存在なのか
おいらは、とるにたらない無用の存在なのか
だれの子かも知れぬ、犬の子と、みなが呼ぶ
おいらは、母の渡った島を知っている
おいらは、人目をしのんだ母の恋を知っている

母は悩んだ、若い美肌を身もだえさせて、彼女は悩んだ
村の青年の一途な思いを振り切って、お腹の子を産むために
村の青年のまっすぐな心を踏みにじって、彼女は島へ渡った

赤子を抱いた若い母親は、石もて追われ、
赤子を抱いた母親は、白い視線のトゲに刺され
ボロにくるんだ赤子をのこして死んだ

おいらは、とるにたらないちっぽけな存在なのか
おいらは、とるにたらない無用の存在なのか
だれの子かも知れぬ、犬の子と、みなが呼ぶ

ある日、グスク(城)から尚真王の使いがやってきて
ある日、グスク(城)から祝女たちがやってきて
腹をすかして泣く子どもを、ボロにくるんだ赤子を連れて行った
だれの子かも知れぬ、犬の子と、みなが呼ぶ
だれの子かも知れぬ、犬の子と、みなが呼ぶ、その子を

ある日、北山の王が滅ぼされ、座喜味グスクが燃え上がり
村人の御主加那志(国王)がねたやしにされたとき
新しい王がやってきた。急の知らせに早々と帰国した男
だれの子かも知れぬ、犬の子と、みなが呼ぶ、その子
新しい王と対面したとき、黙って、一言も、もの言わず黙って
グスクを去った

明の国で覚えた井戸掘りのわざをたよりに
明の国で覚えたサンムシエンをたずさえ、村々を放浪する男
新しい国王に石もて追われ、ボロをまとって、希望のうたを奏でながら
村々を放浪する男

岬に立ち、風を音符にとりこんで、男がうたう
オモイをうたう。
乾いた石ころだらけの台地に、水脈をさぐり、井戸を掘り
食うことのできない作物を重い上納に差し出す人々よ
いまは、ただ
稲穂の花が咲けばホコリも土さえも付かないように
白い稲穂が風になびいて、田んぼのあぜ道を枕にしている

そんな夢を
おいらは、いまサンムシェンのうたに乗せよう
かつての犬の子は、ただただ、頭を垂れるほどの思いに感謝している
稲穂の命は、いろをつけずに、声をからして、うたう

旅から旅を歩いて男はうたう、島々、村々、旱魃の中
熱風吹きすさむ嵐の中、目をギョロッとむき出しながら
路傍に倒れた人々のなか、水脈をさぐり、井戸を掘り
青々と茂るさくもつの実りを言祝ぎながらサンムシェンをかき鳴らす

追っての人々、島々をめぐり、家々、山々、掃討に駆ける
追っての人々、往還を翔り、犬の子を探すも姿形わからず
犬の子の姿わからず、打ちしおれた野良の痩せ犬、蹴とばすばかり

放浪の旅人、おいらは
ある時は、オナリ神にまぎれて、女装し
ある時は、ノロクモイ祝女にまぎれて、神となり
新しい王の追っ手から逃れていく、貧しい人々を言祝ぐために逃げていく

                               (作中に、作田節をふくむ)
                       
# by tamasiro-sango | 2006-02-02 19:50

光の孤独

この冬、魚が浮くくらいの寒さは、あったでしょうか
手紙が届く。
南の島は、ことしくらい寒い日のつづいたことはありません
いつもは、あったかい海に住む
魚も凍えて、ぷかぷか、浮いていました

生きていることは、常温の量子計算ですから、
負の確率密度の困難を解 決する、それが命を燃やしている状態です
水の粒子と
寒さを伝える波動
二つの動きを波束でとらえる

地平線にたどりつく波束に乗って泳ぐ魚群の
体内の小宇宙は
計量の異方性が激 しく揺らぎ突き動かされる
量子状態なのです

揺らぎの中の発生・吸収
その光の世界線が消えたとき、ぷかぷか、浮くのです。
死とは。
# by tamasiro-sango | 2006-02-01 10:17

舌平目

このごろ、どうして、愛してるって、いってくれないの
ずーっと、ずーっと、いっしょに居ようね。
女がそう言った。

男は、心の中に思っていることを、正直に、言った。

いつまで、いっしょに居れるかわからないよ、
あした死んじゃうかもしれないし、
50年先まで、ふたりして頭に雪を被っているかもしれないし。

女は、熱いものが胸にこみ上げた。
女は、泣いた。
うそでもいいから、
ただ、一緒に居ようね、
それだけ言ってくれればいいのに。

男の口の奥から、赤いひらめの顔が覗いていた。
口のまわりには、てかてかと油が光っている。
# by tamasiro-sango | 2006-01-31 11:51

月に惑わされて

嶽(うたき)というのは、拝所のことですが、
そこは
何もない、空き地です。ただ、ちょっとだけ木々が
こんもりと繁っていて、中に入ると青空が深く、
底なしの井戸から
天空を見上げているような
錯覚を誘発するところです。

ある夜、
月に惑わされて、ふらふらと、わたしはその中へ
まぎれ込んでいきました。ひるま見たように、そこは
何もない、空き地で、目に見えない真っ暗闇で
まるで底なしの空間、気がつくと、ぶるぶる震えて
一歩も踏み出せない状態でした。
まっくらな空間を、つま先でさぐるのですが、その自分の足は
見えません。
自分の足も腰も見えないのに、つま先から
地面の感覚だけが、電気信号のように伝わってきます。
まるで、わたし自身が一個の携帯電話になった気がして
耳に聞こえる、葉摺れのさわさわ音も
頬をなでていく、潮の香りも、
かすかに受信機から漏れ出てくる雑音のようでした。

わたしの体内には、受信アンテナが3本立っていて
鋭く研ぎ澄まされて電波の海をさ迷っているようでした。
魚群をさがすソーナーのように深さをさぐり
闇の夜空を飛ぶオオコオモリの反響測定器のように距離をさぐってさ迷いますが
太古の海は、時間が止まったまま揺れていて、
志向性だけが感情の波の上に浮かんでいます。
数学的な規則が、闇に溶けて、消え
わたしは一個のブイになって浮き沈みするばかりです。
その揺れは情動方程式のようでした。

月に惑わされて闇の底へ、わたしが
降りていったとき、空にはまだ銀河が
3次元の微分方程式で輝いていました。
夜空に幾何学的に浮かぶ、大きな月の明かりをうけて、
まぎれこんだ獄(うたき)には、
白い砂の道が
ぼーっと、かすかに浮かんで人の通れる道がつづいています。
この道は、仮想環境に架かる七つ橋といいます。
浜から運んだ砂を
地面に敷いただけの、現実の道です。
頭の中にできた仮想の橋というか、目に写る、大きな虹のようです。
この白い道は、神女の心のなかに
見えて、目の錯視にかかるものでしかありません。
だから、現実の網膜には海の砂の道なのです。
地面の上にぼーっと白い道が敷かれているのですが、
心に邪悪を隠し持つものや
心に隠蔽した罪を負うものは、この橋からは、なぜか転落するのです。
渡ることのできない人間たちの足をしなえさす橋なのです。
身に穢れを負い、心に罰を隠すものは、その橋からは落ちてしまうのです。
そんな橋のむこうに、小さな祠があるのですが
その中には、三つの石が並んでいて
その石の上に循環する炎が揺れていて
命の原郷ニラーハラーへの入り口となっているのです。

月に惑わされて、わたしは、ふらふらと、その闇の入り口へ
向かってまぎれ込んでいきました。一歩、また、一歩、と。
進む足の裏は
ざらざらとした砂の感触を踏むのですが、足そのものは消えています。
ふと気がつくと、わたしは、いま、夜空に架かる虹の橋の上を歩いているのですが、
そこは、月明かりに照らされた白い砂の道に影を落とした真上です。
手も、足も、お腹も、目には何も映らない存在たちが、
虹の橋の向こうの広場に筵を敷いて、みなわたしが来るのを待っているようでした。

わたしの足は重く、気持ちは焦って行こうと逸るのですが、
ことばは、すぐ来るよ、すぐ来るからね、待っててと祈ることばに転化するばかりです。
まだ、無垢の、生まれたての赤子のように、言葉がもどかしく感じました。
魂が、騒ぎはじめていたのです。
獄(うたき)の中の白い道、七つ橋の先には、
イビという三つの石の拝所があるのですが、その中には、
ただ、命の炎だけが情動方程式に灯されて輝いているのです。
かたちの無い、たましいが、むくむくと、それを求めていくのです。
わたしは
人のかたちに、ただ命だけを与えられた見えないものにすぎないようでした。
# by tamasiro-sango | 2006-01-23 12:31

宝貝

おきなわには、黄金の言葉というのがあって
それは、それは、ピカピカ光っているものだ そうだ
クガニ クトゥバ は、だれもが持っていて、知っている ものだそうだ
それは、それは、宝貝のように、硬い殻にくるまってつつんである ものだそうだ

もの だから、
・・・・そうだ、思い出した。母親が持っていた
もの だから、
・・・・そうだ、思い出した。父親が持っていた

おきなわには、黄金の言葉というのがあって
それは、それは、ピカピカ光って輝いているものだ そうだ
クガニ クトゥバ は、
黄に光ってピカピカ光って、子安貝にくるまれて 
やがて、こころになる そうだ
# by tamasiro-sango | 2006-01-21 12:57